科学の世界をディープに語る クロストーク

vol.1

「サイエンスニュース!アジア展」トークイベント「News! 行動するサイエンス(2)

健やかなアジア 感染症をふせぐ

アジアに生きながら、ともに解決していくべき課題とは何だろう。日本科学未来館の企画展「サイエンスニュース!アジア展」のイベントで、地雷除去、感染症、環境問題という3つのテーマについて、研究者と活動家が語り合うトークセッションが行われた。6月30日のテーマは「感染症」。エイズワクチンの研究開発に取り組む俣野哲朗氏と、患者に対する不当な偏見を正しながら看護・教育を行ってきた李祥任氏が、それぞれの観点から、アジアにおけるHIVウイルスの現状や、今後すべきこと、私たちにできることは何かを語った。

俣野哲朗氏

(東京大学医科学研究所 感染症国際研究センター)
東京大学医科学研究所

李祥任氏

(NPO法人シェア=国際保健協力市民の会)
NPO法人シェア

review

研究者が新しい治療法を開発し、それを届ける活動家がいる
 〜研究と活動が連携するあるべき姿を見た

文=斉藤勝司(サイエンスライター)

 エボラウイルスの恐怖を題材にした映画「アウトブレイク」や、謎の病源体で全米が死滅しかけてしまうマイケル・クライトンの小説『アンドロメダ病源体』など、ウイルス感染による危機を扱ったエンターテインメント作品には、枚挙に暇がない。
 目に見えぬ病原体に、いつのまにか感染し、高い確率で死に至るという現実が、多くの作家の創作意欲を触発しているからこそ、こうしたウイルス感染に立ち向かう人々を描いた作品が数多く生み出されているわけだが、科学に興味を持つ者としても、ウイルスに立ち向かう科学者たちには好奇心を抱いてしまう。
 このたび、企画展「サイエンスニュース!アジア展」に関連して開催されたトークセッションでは、エイズに立ち向かう研究者とNPO活動家が紹介された。
 エイズワクチンの開発を進めている東京大学医科学研究所感染症国際研究センターの俣野哲朗教授が、HIVの感染によって発症するエイズという病気がいかなるものなのかをわかりやすく説明した後、ワクチン開発の進捗状況を紹介。発展途上国で健康改善、エイズ対策に取り組んでいるNPO法人シェア(国際保健協力市民の会)国内保健事業担当で看護師の李祥任さんが、タイ農村部でのHIV感染者への支援活動を紹介した。
 ご存知のように、1980年代にエイズの存在が広く知られるようになった際、同性愛者にHIV感染者、エイズ患者が多いと喧伝されたため、エイズに対して必要以上にネガティブなイメージを植え付けてしまった。その結果、現在でもなお感染者、患者に対する偏見は根強く、深刻な社会問題になっている。
 特に正しい情報の普及が遅れがちな発展途上国では、偏見や差別から感染者、患者が社会的に抹殺されてしまいかねない状況にある。これではたとえ俣野教授たち研究者が、エイズの新しい治療法を開発できたとしても、感染者、患者に確実に届けることは難しいだろう。つまり、エイズの対策では研究者が新しい治療法を開発するだけでは十分ではなく、李さんのように、発展途上国でエイズに対する偏見を払拭する啓蒙活動を行うとともに医療技術を届ける人の存在は必要不可欠だ。
 その点で今回のトークセッションで、新しい治療法の開発を進める研究者と、感染者、患者を救う担い手となるNPOスタッフの両者が揃って、現状を報告し合い、将来に向けて克服すべき課題を紹介したことは意義深い。
 ただ惜しむらくは俣野教授、李さんそのプレゼンテーションとトークセッションが1時間でまとめられたことだった。サイエンスライターとしては、俣野教授のプレゼンテーションをうかがい、質問したいことがいくつもあっただけに、もう少し時間をとってじっくり話を聞きたかった。

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