科学の世界をディープに語る クロストーク

vol.3

「サイエンスニュース!アジア展」トークイベント「News! 行動するサイエンス(1)

アジアという環境:自然とお金と人間と

アジアに生きながら、ともに解決していくべき課題とは何だろう。日本科学未来館の企画展「サイエンスニュース!アジア展」のイベントで、対人地雷、感染症、環境問題という3つのテーマについて、研究者と活動家が語り合うトークセッションが行われた。7月29日のテーマは「アジアという環境」。持続可能なアジアのために、今何が必要なのか。地球環境問題に長年携わってきた研究者と、環境問題に配慮したフェアトレードを行う企業人、アジアの環境問題を情報発信する活動家の3人が集い、語り合った。 撮影=大倉寿之

西岡秀三

(国立環境研究所)

胤森なお子

(フェアトレードカンパニー株式会社)
People Tree

グローバル・ヴィレッジ

廣瀬稔也

(東アジア環境情報発伝所)
東アジア環境情報発伝所

ENVIROASIA

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VIDEO  22分

review

アジアを持続可能な社会にするために
 〜一人ひとりの消費行動がアジアを変える〜

文=大倉寿之(サイエンスライター)

 「News!行動するサイエンス」vol.3は、「アジアの環境」がテーマであった。まず、地球環境問題に携わってきた国立環境研究所の西岡秀三氏が研究者としての見方を伝えた。そのお話のなかで、地球温暖化による海面上昇で危機にさらされている国、ツバルのことが語られた。同氏は、水没のおそれがあるツバルを実際に訪問している。
 そこで見たのは、農作物などの有機物を投げ込んでおき、土に還るのを待つ「タロピット」がすべての国民から大切にされている暮らしであった。また、どの家にも雨水をためておく「天水桶」があるのを確認している。つまり、ツバルには、自然の恵みを上手に循環させるシステムができあがっており、必要以上にエネルギーを使うことがない。また、島民が楽しそうに語り合いながら毎日を送っていたという。
 私たちは、ともすると南太平洋のツバルという国に悲観的な未来を予想するが、実は、GNPなどの尺度では測れない幸福感に満たされている国でもあることを西岡氏は実感したという。
 この日のイベントは、こうして従来的な見方をひっくり返してみせる、西岡氏の鮮やかな話題提供から始まった。
 続いて、フェアトレードを推進する胤森なお子氏と、東アジアの環境問題の解決に奔走する廣瀬稔也氏がアクティビストとして加わり、意見を交わすセッションに移った。
 このセッションは、日本科学未来館の今泉真緒さんがいくつかの質問を投げかけ、それに3氏が答えていく形で進められた。「アジアという環境の捉え方」「国境を越えて情報共有を図るには」「消費のあり方で何が変わるか」「自分の立場でできることは?」といった質問が出された。
 3氏による応答に繰り返し出てきたのは、私たちが消費行動を見つめ直すことで、アジアの環境を改善し、持続可能な社会を実現できる可能性があるということであった。
 ひたすら安価なものを追い求める私たちの消費行動が、アジアの他の国々での大量の農薬使用や、子どもたちの劣悪な労働環境につながっているおそれがある。胤森氏による指摘は真実を突き、会場の聴衆をひきつけた。製品をデザインや値段だけで選ぶのではなく、どうやって製造されたのかという「背景情報」とともに理解する必要があるという。
 廣瀬氏も、日本から出た大量の廃家電が中国に持ち込まれ、現地の人たちが、劣悪な環境でリサイクル部品を取り出している現実に言及した。そうした労働に従事する人から見れば、今日明日の生活の糧を得るためには、自分の健康被害や河川の汚染も後回しにせざるを得ないのだ。そして、日本人はそのことに気づかないでいる。廣瀬氏は、日中韓が直面する環境問題を共有し、経験を伝え合う活動に力を尽くす。ENVIROASIAというウェブサイトがそれだ。自分たちの生活が世界につながっていることをもっと知るべきだという。
 西岡氏も、かつて公害に苦しんだ日本の経験を他国に伝えていくべきであるとし、両氏の考えに沿った発言をした。
 このセッションで導き出されたのは、私たちが自分たちの消費行動にもっと注意深くなり、より賢明な消費者となれば、他国に負わせている負荷を軽減し、世界を変えていくことができるということであろう。
 環境問題では、“自分一人だけの行動ではどうにもならない”という言い方がされることがある。しかし、3氏は説得力のある言葉でもって、この考えを退け、未来への明るい展望を開いてみせた。
 消費行動は、生涯を通じて行われるので、そのスケールは実は大きい。さらに、100人、1000人と合わさったときのスケールの大きさを考えれば、一人ひとりの行動が、アジアを「持続可能な社会」とすることに、きっとつながることだろう。会場の聴衆の胸を打つ言葉の数々があふれる有意義なトーク・セッションであった。

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