都市・インフラ


 

3.11で見えてきた
レスキューロボットの課題

木村哲也(長岡技術科学大学)インタビュー



*緊急課題* 

日本の災害対応は、“決死隊” ありきで、人間に頼りすぎています。
 技術が高度化していくと、
 人間の手だけでは対応しきれない状況があることを再認識して、
 安全管理の視点からの、リスクアセスメントの見直しが急務です。
 今後の災害に備えたレスキューロボットの実用化を目指し、
 緊急時において迅速に利用できるシステムをいち早く整備して、
 “決死隊に頼る日本” から1日でも早く抜け出さなくてはなりません。」




今回、地震・津波・原発事故の複合災害に伴い、レスキューロボットに多くの関心が集まりました。しかし、国産ロボットよりも先に海外ロボットが導入された現実に、「ロボット大国 日本」への不信感が広がりました。今回は、災害現場でレスキューロボットによる救援活動を目指して現地調査やボランティア活動を続けてきた長岡技術科学大学の木村哲也氏にお話を伺いました。これまでの活動を通して感じた想いとは? ジレンマとは? 現地で見出した新たな課題とは? 今後の、レスキューロボット実用化へ向けて、全力で活動する研究者を取材しました。



ロボットボランティアとして被災地へ


科学コミュニケーター・寺田雅美(以下、SC 寺田) まず、木村先生ご自身について、東日本大震災後の取り組みを教えてください。


木村 哲也(以下、木村) 大きく分けてふたつの活動に関わりました。ひとつ目は、ロボット研究者を対象に、「ロボットボランティア」制度を発案し、現地で共に活動する有志の協力者を募りました。ふたつ目は、水中探査ロボットによる「ご遺体の捜索」と「港湾部における障害物の調査」です。4月19日から23日に、宮城県南三陸町と岩手県陸前高田市で調査を実施しました。

SC 寺田 ロボットボランティアとはどのような活動を指すのでしょうか?

木村 レスキューロボットを駆使する、特殊技能ボランティアと考えてください。国の要請が出るのを待機したままでは、どうにも動きが取りづらいことを痛感したので、一般ボランティアとして参加することにしたのです。ロボットボランティアは、中越沖地震における活動に端を発しています。その際、T53援龍(テムザック社製)というロボットを使って、現地で活動しましたが、うまく活用できました。そこで今回も、ロボットを手元に持つ研究者達へ、一斉に呼びかけました。その他、本学にあるさまざまな学生ボランティア組織へも「探査ボランティア」の呼びかけを行ない、マッチングを図りました。さらに、それと併行して、4月の水中探査ロボットの調査計画を立てました。

SC 寺田 水中探査ロボットによる活動では、具体的に何をされたのですか?

木村 4月初旬に、研究室の学生の出身地である南三陸町を訪問する機会がありました。現地のご縁で、佐藤仁町長に直接お会いして、ニーズを伺いました。津波被害に伴い行方不明の方が多数いて、いまだに海中に流されたままになっているため、ご遺体の捜索が急務であることを知りました。これは私自身の被災地でのヒヤリングで感じたことでしたが、「捜索していない場所に遺体が遺っているかもしれない」という思いを引きずったままでは復興に向かえない、と共感しました。そこで、水中ロボットによる徹底的な調査を行ない、被災者が心残りなく次のステップに移れるようにしたいと思い、調査活動に至りました。

当時、ちょうど米軍の探査撤退のタイミングも重なっており、佐藤町長から私達宛の要請がなされました。要請文は、田所諭先生(国際レスキューシステム研究機構会長/東北大学)と、震災当日にテキサスでご一緒していたRobin Murphy先生(Center of robot assisted search and rescue 所長/テキサスA&M大学)に宛てられたものでしたが、佐藤町長は「世界中のロボット研究者に書いているつもりです」と胸中を明かしてくださいました。その後、ご遺体捜索と併行して、港湾部の被害調査を行ないました。

水中調査には、Murphy先生チームが持参した、米国製ロボット(高さ40センチ、幅66センチ、奥行き66センチ)を用いました。本体にはビデオカメラや水中音波探知機が付いており、リモコン操縦により南三陸町の水深6メートルの港湾部を2日間かけて捜索しました。その結果、流木やロープが漂っているようすを確認できました。すでに3月に八戸漁港の沿岸調査をしていた松野文俊先生(京都大学)との協働調査でしたから、良いチームワークで活動できたと思っています。

結局、ご遺体の探査には至りませんでしたが、港湾部の調査結果が活かされ、南三陸町の「新漁港」の復旧に役立つ情報がご提供できたのではと考えています。


水中探査ロボット



ロボット操縦のようす



レスキューロボットを社会で活かすには?


SC 寺田 今後のレスキューロボットの開発に必要だと思うことは何ですか?

木村  多くの課題がありますが、今回の水中探査の経験から次のふたつの重要性を再認識しています。まず「ユーザーインタフェース」の重要性です。操縦者にとって 非常にストレスが強くて緊張してしまう環境下でも、間違いなく使える技術が求められています。日本のロボット研究者は、ロボットそのものの機能に目が向きが ちかもしれませんが、それでは不充分だと改めて痛感しました。ガレキを乗り越えるとか、3D画像が映せるとかが注目されますが、現場の確実な運用を保障す るためには、たとえば素早い「画像検索」や「位置データのマッピング」など、世の中に広く役立つデータの提示手段、つまりユーザーインターフェイスが求め られます。

次に、人間がどのように現場で操作して、得たデータをどう蓄積・解析して理解するか、これら手順の「モデル化」が重要です。蓄積 したデータを利用しながら、ロボットを実際に役立てるためのプロセスを、きちんと社会制度化して、今後の国策の中でどうロボットを機能させていくかが課題でしょう。その社会制度の構築のために、システムの安全を専門とする私だからできることに、挑戦していく必要を感じています。

現在の日本では、社会のフィードバックループがまわっていないことも大きな課題です。今回は、海外のロボットが早い段階で導入されました。それに対して国産ロボットが長らく待機せざるを得なかったのはなぜか。国による違いが如実に顕れました。現在の日本では、安全の捉え方が、経験則に偏りすぎているのではと感じます。 社会科学者と工学者が協働して、社会に根付くロボットの持続的な発展をしかけていくことが必要だと思います。

SC 寺田 国による違いについて、例えばアメリカでは、軍事目的を背景にロボット開発がなされている実状があるかと思います。日本の場合は、どのように開発していけば良いのでしょうか?

木村  農業や林業で、技術開発を進めるというのがひとつだと思います。以前、地方におけるロボット開発の可能性を調査したことがありますが、例えば林業組合などには、大きな機材を保管して、随時貸し出す仕組みがあるようです。それらのシステムに、レスキューロボットを含めた産業ロボットが入り込めたら良いと思っ ています。アメリカは、技術を伸ばす戦略を持っています。一方で、日本における技術のニーズとシーズのマッチングは、アメリカと比較すると上手くいってい ない印象があります。マッチングを専門とするコーディネーターを育てることが必要です。

SC 寺田 3.11を経て、ロボットの本当の役割とは何でしょうか?

木村  やはり、人間では無理な環境に行くことができるロボットの重要性を、改めて感じました。現在の日本の災害対応は、人間の「決死隊」ありきです。これは、今回の震災対応だけでなく、普段からの根深い問題だと思っています。例えば、この長岡市では、道路沿いの雪崩に対応するのも「決死隊」です。現場で使うこと ができるロボット技術があるなら、どうして使わないのでしょうか? 現場で災害対応を行なう方々と意見交換する機会も多いのですが、そのご家族のお話を耳にす ると心が痛みます。「人間に頼った安全」だけでは足りないのだと自覚しましょう。「決死隊」に支えられている社会はおかしいですし、私個人が考える理想の 社会像でもありません。

SC 寺田 そのためには、どのような世の中になることが望まれるのでしょう? 今後、木村先生はどのような活動をされますか?

木村  現場対応を支える「知的基盤」(筆者注:調査情報の蓄積)の確保が急務でしょう。「巨大システムの安全性をどうしたら高められるか」を、徹底して考えていきたいです。例えば、工場で生産性を上げるために使われているコンピューターシステムのように、徹底してリスクを把握し、対処するシステムが必要なのです。

東日本大震災が契機となって、大きな活を入れられたように感じています。今回は準備途上であったロボットボランティアの制度も、正式に全国展開できるように、関係者との調整を続けたいと思います。また、ロボットのみを開発するのではなく、大規模災害時にネットワークを上手く活用して、 必要な場所に必要なロボットを迅速に届けるための仕組みづくりにも注力したいと考えています。


5月17日 新潟県・長岡技術科学大学にて
執筆:科学コミュニケーター 寺田雅美