放射能と身体

放射線によるがんのリスク


放射線を浴びた際、のちに現れる健康への影響として、がんを心配されている方もいらっしゃると思います。そこで、放射線とその他の原因による発がんのリスクを比較してみたいと思います。


身の回りのがんの引き金

放射線を受けた際、体の設計図であるDNAが傷つき、がん細胞が生まれる可能性があります。以下のコラムを参照ください。

【Column】弱い放射線の影響

被ばく線量が100ミリシーベルト以上の場合、発がんのリスクは浴びた放射線量に比例することがわかっています。しかし、被ばく線量が100ミリシーベルトより低い場合、被ばくしなかった人たちと比較して、発がん率が上昇した証拠は得られませんでした。放射線以外にも、がんを引き起こす要因はさまざまあるため、低放射線量の場合、被ばくが原因でがんになったかの証明が難しいのです。

国立がん研究センターから、放射線被ばくやその他の要因による発がんのリスクが報告されています。その一部をご紹介します(図1)。



図1 発がんの要因と相対的リスク(出典:国立がん研究センター「わかりやすい放射線とがんのリスク」より抜粋)


例えば、たばこを吸わない夫を持つ女性と比べ、吸う夫を持つ女性は、がんを発症した可能性が1.3倍高いことを意味します。ここでみなさんに伝えたいのは、リスクの高い発がん原因を紹介し、放射線被ばくのリスクを過小評価することではありません。私たちはさまざまな要因から、がんになりうる生活を送っているということです。


がん細胞は毎日生まれている

1960年にノーベル生理学医学賞を受賞したフランク・マクファーレン・バーネットは、「人間の体内では3,000個ものがん細胞が毎日、生まれているが、免疫によって排除され、がんの発症が抑えられている」という「がん免疫監視説」を提唱しました。加えて、近年、細胞のがん化に関わる遺伝子がつぎつぎと発見されています。

がん化に関わる遺伝子が傷つくと、正常な細胞ががん細胞になることがわかりました。しかし、それらの遺伝子のうち、1つだけが傷ついてもがん細胞にはならず、複数の遺伝子が傷つかないとがん化しない「多段階発がん説」が提唱されています。また、DNAが損傷を受けた際、きちんと元に戻そうとする修復酵素のしくみもあります。つまり、さまざまな原因によってがん細胞は日常的に生まれていますが、いくつもの警備網やハードルを超えて、初めてがんが発症します(図2)。




図2 がんを発症する過程

リスクと向き合う

がんにいたる原因――例えば、野菜不足に、肥満に、アルコール・・・。その中のひとつが、身体が浴びる放射線です。福島第一原子力発電所の今回の事故により、環境中の放射線量が増加するという状況を迎えました。もちろん、喫煙者や飲酒者が発がんのリスクを承知の上でたしなんでいるのとは異なり、原発事故による被ばくは誰も望んでいなかったでしょう。しかし、放射線だけ避けていても、発がんのリスクを排除したことにはならないのです。

放射線被ばくに限らず、発がんの要因を完全に排除できない以上、安全か危険かの二択ではなく、リスクの重みを見積り、どの程度まで受け入れるかを一人ひとりが判断しなければなりません。しかし、政府から発表される情報をどう解釈したらいいのか、あるいは、本当に正しいのか、と疑問に思われる方もいらっしゃると思います。

確かに、放射線の理解は難しいですが、わかりやすい解説本やウェブサイトを参考に、放射線被ばくによる健康へのリスクを減らすためにどれだけの労力を費やすことが妥当なのか、科学的根拠に基づいて考えることが大切ではないでしょうか。


執筆:科学コミュニケーター 小林直樹

2011/07/29 掲載


関連リンク

国立がん研究センター - 「わかりやすい放射線とがんのリスク」
筑波大学大学院 実験病理学研究室 - 「がんとはどういう病気か -4-」
独立行政法人 放射線医学総合研究所