原発・エネルギーの今後


 

科学技術に携わる者の社会的責任

黒田光太郎(名城大学)インタビュー



*緊急課題* 

「研究者の方向転換が必要だと思います。
 技術的に考えて制御するのが難しいのであれば、
 それを選択しないという方向を検討すべきだと思う。
 技術的な問題が分かるからこそ、関わる研究者が率直に語った方がいい。
 科学・技術そのものを問う倫理教育が必要です。」




福島第一原子力発電所の事故により、放射能汚染、電力供給量の低下など私たちの身近なところに影響が現われています。これからの原子力発電をどう考えていけば良いのか、名城大学教授黒田光太郎先生にお話をうかがいました。黒田先生はもともと材料工学が専門ですが、現在は哲学や倫理学の研究者とともに工学倫理を研究しています。科学・技術が社会にどのような影響を与えるか、広く議論する必要性を感じ、とくにナノクノロジーの倫理・社会的影響を研究、大学院での講義や市民対象のセミナーも行なっています。また、原子力発電に慎重な立場の委員として、新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会のもとにある設備健全性、耐震安全性に関する小委員会に加わっています。




人間は原子力技術を制御できるのか



科学コミュニケーター 天野(以下、SC 天野) 今回の原発事故をどのようにお考えですか?

黒田光太郎(以下、黒田) 原発は、急な核反応をおさえ、ゆっくり反応するようにコントロールするという発想でつくられてきました。事故が発生したときにも、その反応を止める仕組みをつくった…そう言われています。しかし今も福島の原子炉は不安定な状態です。原子力技術そのものが人間の手でコントロールできるものではないのかもしれないと思えます。

核物質を制御しきれないのは我々の技術が未熟なだけで、技術が進めば制御可能になると考える人もいるでしょう。しかし、そもそも核暴走の可能性を抱えた原子力という技術開発は、人間がコントロールできない領域に踏み込んでしまったものなのかもしれません。

放射性廃棄物の問題を将来的に人間が扱いきれるのか?という問いに対する議論も不十分です。放射性廃棄物の処理まで含めたシステム全体としてみると、原子力発電は完成されているものではなく、議論の途中にある技術であると思います。日本は原子力のシステムが完成していない状態で、原子力政策を進めてきてしまった。このことが一番大きな問題だったと思います。

SC 天野 これから日本が選択すべきエネルギー戦略とは?

黒田 原発を減らして、風力や太陽光といった自然エネルギーを増やしていく方向を展開していくべきで、国際社会の中でも日本に求められていると考えています。

近年、温暖化対策の柱という位置づけで原発を推進するという世界的な流れの中で、日本は原発の受注をとり世界に売り出していくことを行なってきました。欧州では原発を利用する一方で、自然エネルギーの開発にも力を入れてきましたが、日本は自然エネルギーの分野で大きく遅れをとってしまっています。

今回の原発事故を受けて、欧州を中心に脱原発の動きが加速する中で、今後日本が海外に原発を売っていくのは非常に難しいと思います。ましてや、日本で新たに原発をつくることはより一層難しい。ここで、方向転換が必要なのだと思います。


科学技術に携わる者の社会的責任


SC 天野 過去に原発開発に疑問を投げた人がいたにもかかわらず、現在があります。今後を考える上で、課題は何なのでしょうか?

黒田 研究者の方向転換が必要だと思います。これまで科学で全てを解決できるという志向性が強かったのだと思います。しかし、技術的に考えてそれを制御するのが難しいのであれば、それを選択しないほうがよいという技術もあるはずだと思う。技術的な問題が分かるからこそ、それに関わる研究者が率直に語った方がいいと思います。現実に、原子力工学に関わっていた技術者には、原発に反対する人も多い。やはり彼らは、原発は完成された技術ではないと感じているのだと思います。それは科学者の責任だと思います。

過去にも、科学者の社会的責任を問う事件はありました。そのひとつが1995年のオウム真理教の地下鉄サリン事件です(*注1)。このような問題から科学・技術系の学生に対する倫理面の教育の必要があるとされ「科学・技術倫理」教育が始まる契機になりました。日本での「技術者倫理」教育の本格的な開始は日本技術者教育認定機構(JABEE)(*注2)が設立された1999年以降になりますが、この技術者倫理は技術者が企業に所属していることが多いために、企業倫理という枠組みの中で語られることも多かったように思います。

今回の原発事故のような、社会に大きな影響を与えうる科学・技術の場合、企業内での倫理教育では太刀打ちできません。科学・技術そのものを問う倫理教育が必要です。すでに、ゲノム研究では、純粋な自然科学の研究と同時に、その研究成果が社会にどのような影響を及ぼすのかを、研究し始めています。ナノテクノロジーなど、これから育っていく研究分野でも同じような研究をしていくべきだと思いますし、それを提言してきました。次の科学技術基本計画でも、このような分野の開拓とその人材育成の計画が入ってくるはずです。

SC 天野 科学技術そのものを問うということは、とてつもなく大きな課題ですね。先生は科学技術をどのような視点でみているのでしょうか?

黒田 “今までにないから”面白いというのは、科学・技術に限らずあらゆる分野で活動を進める大きなモチベーションとなります。しかし工学には、そのような新奇なクリエイティブなものづくりの側面だけでなく、”社会をいかに維持するか”に寄与する側面もあります。そのような側面での工学の重要性は、今後ますます高まると思います。例えば、いわゆる「都市鉱山」といわれるもの(*注3)は、今使われている製品の中から有用資源を取り出そうというもので、資源の将来を考え、社会を維持していく上で非常に重要です。

社会に対していかに貢献するかという点に目を向けていく、そのような教育が、工学研究のすべての分野で必要ではないかと思います。



3.11を受けて工学に期待すること



SC 天野 
今回の震災を受けて私たちがマインドリセットすべきことは何でしょうか?

黒田 今回の震災は本当に不幸なことではありますが、当たり前のように電力が供給されている社会の裏側を知るきっかけになりました。エネルギーを大量消費する生活を見直すべきだと思いますが、それはもう多くの市民が実感していることだと思います。

電力削減で薄暗くなった東京をみて、東京が以前よりかっこよくなったという人もいます。ニューヨークのようでかっこいいと。日本のように夜でも煌々と明るい国というのは、世界的にみても珍しいと思う。何が本当の意味で人間の豊かさなのかをみなおして、そのような社会を維持するために知恵を絞る。ものづくりだけではない、社会を維持するための工学が活躍することを期待したいです。

(*注1)理系の出身者・研究者がサリンの合成と散布に関与していた。
(*注2)JABEEの認定基準の「基準1学習・教育目標」において「技術者倫理」は、(b)技術が社会や自然に及ぼす影響や効果、および技術者が社会に対して負っている責任に関する理解(技術者倫理)として取り上げられて、日本における技術者倫理教育が急速に普及した。
(*注3)都市でゴミとして廃棄される家電製品などに含まれる有用な資源(レアメタルなど)を、都市に存在する鉱山に見立てた言葉。多種多様な製品から有用な資源を分類して取り出し、蓄積して資源にするためには、社会やものづくりのシステムを変革する工学的な新手法が求められる。


4 月20 日 名古屋大学にて
執筆: 科学コミュニケーター 天野春樹