地震・津波の今後


 

今後の地震予知について

早川正士電気通信大学 名誉教授)インタビュー



*緊急課題* 

地震予知は不可能であるという認識が
 日本では一般的になっています。しかし、
 電磁気的手法を使用すれば、かなりの精度で地震予知が
 可能なことが明らかになってきています。
 そうした事実を認識して、地震による被害を最小限にするために、
 地震予知に関する研究を国を挙げて推進していくべきです。




地震予知は果たして可能なのでしょうか。東日本大震災で打ちのめされた私たちは懐疑的になっています。そんな中、電磁気的手法で過去20年、地震予知の可能性をさぐりつづけてきた電気通信大学の早川正士教授を取材しました。電磁気的手法では、地震発生前に生じる電波の異常を観測することで、地震の発生を予知します。地震学の手法とは異なり、地震のメカニズムは考慮しません。早川氏は、この電磁気的手法を使用することで低コストかつ高精度な地震の短期的予知が可能であり、研究開発を進めていくべきだと訴えます。3月11日に発生した地震の前兆は、とらえられていたのでしょうか。また、日本ではなぜ地震予知の成果が上がっていないのか、今後どうすれば良いのかを、伺いました。




東北地方太平洋沖地震の前兆を示す電波異常



科学コミュニケーター 志水(以下、SC 志水) 今回の地震に際しては、地震予知情報はどこからも結局もたらされなかったわけですが、多くの市民は、天気予報のような地震予報が、いつの日か実現するのではないかと期待していると思います。地震予知研究はどれくらい進んでいるのでしょうか?

早川正士(以下、早川) 地震予知は、長期、中期、短期に大別されます。このうち、中・長期の予知とは、数十年、あるいは数百年~数千年の間に、どこそこで、何%の確率で地震が起きるのかを予知するもの。一方、短期予知とは、数日から1ヶ月ぐらいの間での地震の発生を予知するものです。日本では、中・長期の地震予知研究については盛んに研究が行なわれてきましたが、短期予知についてはあまり研究されてきませんでした。

しかし、短期予知こそが、市民の命や財産を守るという観点から最も重要です。数日前に地震が発生することが判れば、被害を最小限にする対策を講じるための時間を確保できるからです。また、緊急地震速報と比べても優位です。緊急地震速報の場合には、地震が発生してから警報が流れますから、震源に近い地域では、ほとんど対策を講じる時間を確保できないためです。

我々の研究チームでは、この短期予知に注目し、電磁気的手法を使用した研究を進めてきました。そして、かなり上手く地震予知が行なえることが解ってきました。

SC 志水 その電磁気的手法による地震の短期予知をどのように行なうのか、概要を教えて下さい。

早川 地震発生前に起きる電磁気的な現象をとらえて地震予知を行ないます。
特に有望視されているのが、地震発生前に起こる電離層の異変を観測し、地震予知を行なう方法です。電離層というのは、地上から約80キロメートルのところにある、電波を反射する性質を持った大気上層のことですが、地震が起きる前に2~3キロメートル下がることがわかっています。なぜ下がるのかについては、まだはっきりした原因が解っていませんが、この電離層が下がる現象を観測できれば地震を予知できるのです。

我々の研究チームでは、この電離層が下がる現象を超長波/長波(以下、VLF/LF)送信局電波を使用して観測しています。原理は単純です。電波の送信局と受信局をいくつか用意して、ある地点からある地点までの電波のとどく時間を調べるのです。この時間は、電離層の高さによって変化します。なぜなら、地表面と電離層を交互に反射しながら進む電波は、電離層の高さに応じて進む距離が増減するからです。

この電離層が下がることによるVLF/LFの伝播異常は、通常、地震が発生する約1週間前に現われます。この異常は、地震が発生するまで持続するわけではなく、異常が発生してしばらくすると収まるという特徴を持っています。

現在、我々の研究チームでは、福島にある電波時計の基地局と、九州にある基地局を主要な送信局にしています。一方、受信局は、北海道の母子里、愛知県の春日井、高知、岡山県の津山、そしてここ東京の調布です。これらの送信局および受信局の組み合わせを使うことで、日本国内の陸域を震源とする地震については、いつ、どこで、どれぐらいの強さで起こるかを調べることができます。実際、2005年8月16日に発生した宮城県沖地震では、母子里と福島の組み合わせで伝播異常、即ち、電離層異常を観測しています。



VLF/LF観測網。★は受信局、◆は送信局、黄色の丸印は震源地を表わす。
MSRは母子里、CHFは調布、KSGは春日井、KCHは高知にある受信局。
また、NLKはワシントン州、JJYは福島県、JJIは九州にある送信局。


SC 志水 東北地方太平洋沖地震では異常はみえたのですか?

早川 みえていたんです。東北地方の沖合150キロメートルの海底が震源だったので、我々が通常モニタしている陸域では伝播異常はありませんでした。しかしアメリカのワシントン州にある送信局電波を調布で受信したデータに、3月5~6日にかけて異常が現われたのです。その異常信号が消えてから、東北沖の地震に注目していたところ、3月9日に宮城県沖でM7クラスの地震が発生しました。統計的には電波異常が発生してから約1週間後に地震が発生するため、3月9日に宮城県沖で発生した地震の前兆にしては期間が短かすぎます。何か変だなとは思っていたのですが、その後にあのようなM9クラスの本震が待っていたことを、はっきりと予想することはできませんでした。この3月5~6日にかけての電波異常は、ワシントン州と春日井や、ワシントン州と高知のパスでも現われていました。



東北地方太平洋沖地震の前兆(VLF/LF異常)を示すデータ
赤丸で示した部分が3月5日から6日にかけてのデータで、
突出した異常が確認できる。


地震予知研究の厳しい現状


SC 志水 日本で地震の研究が長年行なわれてきたにもかかわらず、地震予知の成果が上がらなかったのはなぜでしょうか?

早川 関東大震災が1923年に起こった後、地震予知研究の方向性として、2つの考え方が示されました。ひとつは、地震のメカニズムを科学的に解明し、その知見をもとに予知の方法を探していこうというもの。もうひとつは、科学的な理由づけはできなくても、実用的に予知につながる方法を何でも探そうというものです。

最終的には、前者の考え方が採用され、東京大学に地震研究所ができました。この経緯から分かるように、地震学として力学的なメカニズムを明らかにする研究にずっと力点が置かれてきたのです。地震のメカニズム研究の中から地震予知につながるものは結局出てくることなく、1995年に阪神淡路大震災が起きました。

その後、文部科学省の測地学審議会が、地震予知は将来にわたっても不可能であるという結論を出すに至りました。それから、地震予知という言葉が、世間一般から消え、地震予知というのが、不可能なものであるという認識が一般的になってしまいました。

SC 志水 地震予知研究を推進するためには、どうすれば良いのでしょうか。

早川 地震のメカニズムを明らかにする地震学と、地震予知学というのは全く関係のない学問であることを認識することです。地震予知とは、地震の前兆現象をみつけるものであって、地震のメカニズムを知らなくても行なえます。この前兆現象は、地震前に発生する現象であれば何でもいい。電磁気的なものでも、力学的なものでも、極端な話、ナマズでも良いのです。とにかく、地震との因果関係がはっきりした現象であればいいのです。

その前兆現象として、我々の研究チームは、電離層の異常をとらえるのに成功したのです。台湾の研究チームも、電離層の上の層で地震の前に異常があることを発見しています。したがって、地震の前に電離層に異常が現われることはほぼ確実といってよいでしょう。

くわえて、電磁気的手法を使用した地震予知には、今までお話してきた超長波/長波(VLF/LF)送信局電波を使うものの他に、超低周波(以下、ULF)放射を使うものも有望視されています。これは、大きな地震の前にULF放射が起こることを利用して地震を予知するものです。ULF放射の異常は、ロマプリエータで1989年に発生したM7クラスの地震などで確認されています。


ロマプリエータ地震の前兆(ULF異常)を示すデータ
矢印で示した部分が地震発生時、赤丸で示した部分が地震の前兆となる
ULF異常のデータを表わしている。

このULFを使用した地震予知には、震源近くに観測点がないと異常を検知できないという欠点があります。逆に言うと、ピンポイントで地震予知ができるという利点もあります。観測点で異常がみつかれば、その近くを震源とした地震が起こることを意味しているわけですから。

実際、半径100km以内であれば、M7以上の地震を予知可能なことがわかっています。したがって、極端なことを言えば、各県に1つずつULFセンサーを設置すれば、日本で起こる地震はピンポイントで全て予知できるのです。設置費用は、地震計を設置する費用とさほど変わりません。我々は、このULF放射の観測網をすでに関東に張っています。伊豆に3~4点、房総半島に3~4点、あと松代などです。VLF/LF観測とともに、これらのULF放射観測データについてもリアルタイムで処理する体制を整える予定です。


 

関東地区でのULF放射観測網


また、このULF放射による地震予知は、原子力発電所の安全対策と密接に関係します。なぜなら、近くで地震が起こることが判れば、事前に制御棒を挿入して原子炉を停止状態にしておけるからです。ULF放射では、地震の発生が1週間ほど前に判るため、原子炉を安全に停止する十分な時間があります。

このように、電磁気的手法を利用すれば、かなり上手く地震予知を行なえるのです。にもかかわらず、地震学とは異なる手法による地震予知研究には、研究費がほとんどつかないのが現状です。そこに大きな問題があるのです。

地震のメカニズム研究が学問として重要なことには異論ありません。しかし国民の命と財産を守るための予知研究にも、相当の分配をする必要があります。少なくとも、電磁気的手法にもとづく地震予知に関しては、既に実用化の段階に入りつつあるものもあり、巨額な予算は必要ないのです。

我々の研究チームでは、研究費を確保するために地震予知に関する情報の有料配信を計画しています。そのために、ベンチャー企業を新たに立ち上げます。そこで得られた利益を、地震予知の研究費に充てるのです。3月11日に地震が発生した影響で3月上旬予定だった配信開始時期が遅れていますが、早い時期に配信を開始したいと考えています。


地震予知を今後社会で役立てるために



SC 志水 地震予知の精度を向上させる将来の社会システムについて、お考えをお聞かせください。

早川 VLF/LF観測でも、ULF放射観測でも、観測点の拡充により予知精度を向上させます。そして予知精度向上とともに、天気予報と並んで、地震予報のようなサービスが普及しても良いと考えています。

この予知情報ですが、地震学者によっては100%正確な情報でなければ社会が混乱するだけなので出すべきでないという方もいらっしゃいます。しかし、科学的論拠にもとづいた予知情報であれば、積極的に社会に提供していくべきだと考えています。その情報をどのように扱うかは受け取った側が考えるべきことです。気象会社も、地震予知が精度良く行なえるようになれば、地震予報を視野に入れてくるでしょう。

SC 志水 最後に、国・国民へメッセージをお願いします

早川 地震予知はできないという認識が一般的になっていますが、まず、その認識が誤りであるということを知って欲しい。
市民の命や財産を守るために、地震予知は非常に重要で、国を挙げてサポートしていくべきではないでしょうか。このことを皆さんがしっかりと考えて、社会全体で議論して欲しいと思います。


4月28日 調布市・電気通信大学にて
執筆:科学コミュニケーター 志水克大

2011/06/12 改訂