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撮影

SHOOTING

『9次元からきた男』の撮影は、2015年の夏に行われました。実はドーム映像の分野では、実写のドラマ作品は非常にめずらしく、制作方法が確立されていないため、清水監督率いる撮影チームはドームシアター用の3D映像を撮影するための勉強会から始め、技術的なテストを重ねながら撮影を進めていきました。※作品内容も含まれます。まだご覧になっていない方はご注意ください。

1.プロフェッショナルたちが頭を悩ませたドーム映像撮影

本作では、ドームシアターのスクリーンいっぱいに映像を投影し、没入感を高める演出をするために、180度の魚眼レンズという特殊なレンズを使って撮影しています。通常の映画撮影ではほとんど使用しないレンズなので、いつもは簡単なことも試行錯誤の連続でした。これまで数々の映画を制作してきた清水監督や撮影スタッフたちも、手探り状態で撮影をはじめたそうです。
180度の魚眼レンズを使うと丸い映像を撮影することができます。画面の中央はゆがみが少なく、円周側に近くなるにつれてゆがみが大きくなります。この映像をフラットなスクリーンに映した場合は右の画像のように丸くゆがんでいますが、ドームシアターで投影すると、ゆがみが補正されて自然な映像に見えるのです。

2.ドーム映像の画角とは?

では、丸い画面の撮影では、画面の中のどこに被写体をとらえて撮影するのでしょうか。
未来館のドームシアターは約23度の傾斜がある階段状のシアターで、壁面に設置されたプロジェクターから投影するため、観客がドームシアターに座ってスクリーンを見たときの目線は、丸い画面の中央より下方になります。さらに、ドームシアターの前方だけでなく、左右、後方、あらゆる方向からT.o.Eを登場させるなど、ドームシアター全体を使った演出を行うため、画面のどの部分に被写体をとらえれば効果的な演出ができるのか、撮影前に何度も画コンテを基にしたテスト撮影とドームでの試写が行われました。

3.撮影隊が未来館にやってきた!

撮影は都内各所でのロケーションのほか、未来館でも休館日や閉館後を利用して計4日間にわたって行われました。館内には大量の撮影機材や美術セットが持ち込まれました。作品の中ではシンボル展示の「ジオ・コスモス」のほかにも、いくつかの場面で未来館が登場します。これは、作品を観た後に観客の皆さんが館内を見回してみて、今見たばかりの劇中の場面や場所が現実とシンクロして、いろいろな発見があったら楽しいはず、という清水監督の計らいです。夜のジオ・コスモスのシーンでは、ナイトミュージアム的な雰囲気も楽しんでいただけるでしょう。あなたはいくつ、未来館で撮影されたシーンを見つけることができるでしょうか?

4.黒板の数式は語る

作品冒頭でアサヒ教授が超弦理論の講義をしているシーンは、未来館ホールで撮影されました。後ろの黒板には何が書いてあるのでしょう。左側にあるのは量子力学、右側は相対性理論を表す方程式です。そして、中央下のほうには、赤いチョークで「D=9」と書かれています。Dとは「Dimension(次元)」、つまり9次元という意味です。アサヒ教授はこの黒板で、ミクロの世界(量子力学)とマクロの世界(相対性理論)をつなぐのが超弦理論であり、超弦理論において次元は9つある、と説明しているのです。これからはじまる、アサヒ教授と科学者たちの次元を超える旅を予告する重要な数式なのです。
この黒板は、監修であるアメリカ在住の大栗先生から、このシーンに合う数式や説明を直筆で書いてスキャンしたものを送ってもらい、未来館の科学コミュニケーターが書いたものです。撮影中も数式のレイアウトなどを大栗先生と国際電話で確認をしながら完成させました。
数式といえば、T.o.E.をつかまえそうになるクライマックスシーンでも、科学者たちの手や体から数式があふれ出してきます。ここで登場するのは、ニュートンの運動方程式、マクスウェルの電磁気の方程式、流体のナビエ‐ストークス方程式、素粒子の世界の基本式、そして重力の世界の基本式など。すべて清水監督の希望から、大栗先生による手描きの数式を加工して使っています。撮影は、後から数式をコンピュータグラフィックスで合成することを想定して、グリーンバックを立てて行われました。

5.“見えない世界”を実写で撮る挑戦

「あらゆる可能性は同時に存在しているんだ!」という、アサヒ教授のセリフは構成台本を担当した井内氏の脚本によるもの。この言葉どおり、量子空間(量子力学がはたらく超ミクロの世界)を舞台にしたシーン(画像)では、清水監督の画コンテによる演出でドームのあらゆる方向からT.o.E.が登場します。このシーンのために、コンピュータグラフィックスで描いた量子空間に合成するT.o.E.のアクション撮影が、グリーンバックのスタジオで丸一日かけて行われました。重力ではなく特殊なルールに支配された量子空間や、T.o.E.が颯爽と次元を超えていくシーンなど、本来は目に見えない世界にあえて実写を差し込む清水監督ならではの演出。このこだわりが、作品に独特のリアリティを与えていると言えるでしょう。ただし長時間ワイヤーに吊られる撮影は、スタッフもT.o.E.を演じるジェームスさんにも非常に負担のかかるものでした。今回、スタジオ撮影だけでなく、炎天下の中、コートにマフラーという出で立ちで演じたジェームスさんは撮影を次のように振り返ってくれました。
「このプロジェクトへの参加は、信じられないくらい自分が小さいと強く感じた経験でした。清水監督と仕事をしたことや、複雑な映画を作り上げる制作者の手腕を見ただけでなく、このような深いテーマを掘り下げていったということにもです。日常の些細なことから一歩引いて、自分の世界から遙かに遠い世界や、同時に自分たちを形作っているもの、私たちがつながっているものについて、探求する機会を私に与えてくれました。この作品は生命の構成や現象について好奇心をかきたてるもので、参加できたことをとても誇りに思います」
清水監督はこう答えます…「そのように捉えていただき、非常に光栄です。科学者、俳優、そして僕ら作り手が一致団結して、苦楽を共有出来た事に幸せを感じます。また普段、なかなか直接手を取り合う機会のない面々が協力し合えたのは未来館の企画メンバーの皆さんのおかげです。監督の立場の僕が言うのもなんですが、本作は未来館から世界の人々へ向けて自信を持ってお届けできる映像作品です。誰にでも楽しめると思いますし、どこの、どなたの生活や人生にも繋がる科学テーマを取り上げています。特にお子さんや若い世代の方には、良きトラウマを与え、科学や映像への興味を見出してもらえたら…と思いを込めて作りました。〝難しそう〟といった先入観を捨てて、まずはご高覧ください!!」

『9次元からきた男』Behind the Scenes

こちらからメイキング映像をご覧いただけます

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